
「顔を見せたら終わり」と思い込んだF君
F君は、中1の頃は活発で友人も多かったそうですが、二学期以降、次第に学校を休むことが多くなり、三学期には市内の適応指導教室に通うようになりました。私は、彼が中2のはじめの頃に出会いました。彼は保護者の方の送迎で適応指導教室に通っていて、主に自主学習をしていましたが、指導員の先生の話では「同じ部屋に他人がいると、F君はずっと両手で顔をおおって隠し、まったくしゃべらない」とのことでした。
そこで、私は部屋の外から声を掛け、挨拶をしてから、F君に入室してよいか尋ねました。ドアのガラスから彼の背中が見えました。声を掛けるとF君はすぐに両手で顔をおおい、うつむいてしまいましたが、入室はOKとうなづいてくれました。その後、うつむいたままのF君とは、「はい」ならうなづき、「いいえ」なら首を振るというコミュニケーションで話をうかがいました。
F君の回答を総合すると、「いつからか分からないが、何となく『僕の顔を他人が見たら世界が終わる』と思うようになり、家でも隠している。ただ、もしこれが病気のせいなら治したい」とのことでした。
心の病の中には、「事実に基づかない、間違った思い込み(妄想)により日々苦痛を感じ、日常生活に支障が出てしまう」という症状の病気があります。F君にはそうした心の悩みを専門の医師に相談してみるように勧め、保護者の方には私から事情を説明して良いか尋ねると、F君も了解してくれました。
その後、父母にも精神科病院への受診を勧めたところ、後日医師よりF君は『統合失調症』との診断と、服薬治療を開始したとうかがいました。服薬の効果で妄想症状が軽快したF君は、中2の二学期から中学校に復帰し、元気に登校するようになったと指導員の先生から話をうかがいました。